バレンタインby鈴置万里子


 「どうしてシンタローはそんなに私を嫌うんだろう?」
 「はあ?」
 マジックに真正面から聞かれたシンタローは顔をしかめる。
 てっきり仕事絡みの話だと思って呼び出しに応えてきてみれば私事もいいところだ。
 ガンマ団の前総帥であるマジックの影響力はいまだに大きいから、新総帥であるシンタローも無碍にはできなくて顔は出すのだが正直長居をしたいわけではない。
 マジックの私室は変わりなくガンマ団本部の中にあるのだが、シンタローはどうも落ち着かない。マジックのセンスにもついていけないが、なによりマジックは油断できない男だった。
 シンタローに危害を加えるわけではない。むしろ昔からマジックはシンタローを溺愛していた。
 もともとシンタローはマジックに育てられ、成人するまで本当の父親だと思っていた。当時からマジックのシンタローへの溺愛ぶりは尋常ではなく立派な変態の域に達していたが、未だに執着は止まるところを知らなかった。
 愛情だけは溢れるほど注いでもらったことにシンタローも感謝はしているけれど、マジックには限度というものがない。
ついでに常識も欠落している。
 「好かれる理由がねえだろ、この変態親父」
 つい罵倒してしまうシンタローの視線はマジックが大事そうに抱えている自分の姿を模した人形にそそがれていた。
 「変態親父だなんて、ひどいことを。パパはそんな子供に育てた覚えはないよ。ねえ、シンちゃん」
 「人形に話しかけるな、頬ずりするな」
 シンタローが子供の頃からマジックは自分で作った人形を片時もそばから離さなかった。無理に取り上げると、シンタロー自身が人形と同じ扱いを受けることになるのでじっとこらえているのだが、いい年をした男が真顔で人形に話しかける図は寒すぎる。
 「キスとかするなよ」
 「ふふふふふ。してないわけがないだろう」
 言いながら目の前で実証されてはシンタローも怒りを通り越して脱力してしまう。
 「どうしてこの親父はこんな変態に…」
 言ってもしょうがないことなのだが、引退して少しはおとなしくなるかと思えば服装は派手になる一方だし、現役の頃よりパワーアップしているかもしれない。
 「シンタロー」
 不意に真顔でマジックが手を伸ばしてきて、シンタローを間近に引き寄せる。
 「色ぼけ親父…」
 「ふふふ、悪い子だ」
 口ではどんなに抗ってみせても、シンタローがマジックの手管に落ちなかったことはない。
 それを知っているからマジックも余裕の態度でシンタローを抱きとめる。
 「今日はなんの日か知っているかい?」
 「………」
 「バレンタインだよ」
 愛の告白をする日だと。
 毎日でもシンタローと愛し合いたいマジックの腕に力がこもる。
 「ばーか」
 シンタローはどうしようもなく甘やかされている自分自身に苦笑しながらしかたない素振りで顔を仰向け、キスを受け止めた。



04.2.14 UP thanks you!